土壌診断に使われるEC値(電気伝導度)とは何?なぜ硝酸態窒素の目安となるの?数値の意味と、作物ごとの適正範囲を知ろう。

良い買い物をしました。

pHメーターとECメーターが一体になった水質測定器(セムコーポレーション製)です。

これで何ができるようになるかと言うと、簡易的な土壌診断が可能になります。

農家さんだとJAなどに委託して詳しい土壌診断を受けているそうですが、個人の家庭菜園やプランター栽培でそこまでする人はほとんどいないと思います。だから土壌をちゃんと科学的に管理してる人って案外少なくて、それゆえに「土づくり」って妙にオカルトっぽくなっちゃうんですよね(自然のものだから、いくら撒いても大丈夫!とか)。

せめてpHとECを確認するだけでも、苦土石灰や肥料の施用量を合理的に見積もれます。市販キットでリン酸とカリウムの含量も調べれば、家庭菜園レベルなら上出来じゃないでしょうか。測定値を入力すると土壌改良の方針を教えてくれるプログラムを書けば、もっと便利でしょうね。

というわけで、土壌診断で使う指標の解説や、実際に行ってみた所感などを、何回かに分けて書いていきたいと思います。

まずは「そもそもEC値ってなんや」というところを、自身の備忘録と兼ねてまとめました。

EC値とは

EC(Electrical Conductivity)とは、訳せば電気電導度のこと。簡単に言うと電気の流れやすさです。mS/㎤(ミリジーメンス毎立方センチメートル)という、あまり日常生活で見かけない単位で表します。

結論から言うと、EC値は土壌のイオン濃度(塩類濃度)を表す指標であり、とりわけ硝酸態窒素の目安として使われています。

「電気の流れやすさ」と「イオン濃度」「硝酸態窒素」がどう繋がるのか、軽く説明します。

イオンが多いほど電気がよく流れる

「水は電気を通す」って言いますけど、あれは厳密には違いまして、純粋な水は電気を通しません。実際は、水の中に溶けているイオンが電子を受け渡すことで電気が流れるようになります。水に溶けているイオンが増えると、電気が流れやすくなり、電気伝導度が上がります

EC値(電気伝導度)が高い = イオンがたくさん含まれている

これを利用すれば、土壌に含まれているイオンの量を把握できます。やり方は簡単で、土壌サンプルを純粋な水に分散させて電気伝導度を測るだけ。電気伝導度が高いほど、土に多くのイオンが含まれていることになります。

これで「電気の流れやすさ」と「イオン濃度」が繋がりましたね。

土に含まれるイオン

ただ、イオンと言ってもいろいろ種類がありますよね(中学高校で散々やったはずです)。

土によく含まれているイオンの例を挙げると・・・

  • アルカリ金属やアルカリ土類金属(ナトリウム、マグネシウム、カルシウム)
  • 塩化物イオン
  • アンモニウムイオン
  • 硝酸イオン

マグネシウム、カルシウム、アンモニウムイオン、硝酸イオンでピンと来る方もおられるでしょう。これらは植物の養分として土に加えられる成分でもあります。

マグネシウムはクロロフィル(葉緑素)の中心金属、カルシウムは細胞内の各種膜構造の構成に必要です。

アンモニウムイオンと硝酸イオンは必須元素である窒素の供給源。多くの畑作物は硝酸イオン(硝酸態窒素)を吸収しますが、イネやレタスはアンモニウムイオン(アンモニア態窒素)を好みます。

硝酸イオンが多いとEC値が上昇する

数あるイオンの中でも、特にEC値の上昇に寄与しやすいのは硝酸イオンです。硝酸イオンは有機物の分解や肥料の施用によって頻繁に供給されるため、そもそもの量が多くなりがちです。さらに硝酸イオンは文字通り「酸」ですから、土壌のpHを低下させ、土壌中で固体として存在している金属イオンを溶出させます。金属イオンが溶出することでさらに電気が流れやすくなり、EC値が上昇します。

硝酸イオンが増える → EC値が上がる

これで「電気の流れやすさ」「イオン濃度」「硝酸態窒素」が繋がりました

ただし、塩化物イオンや硫酸イオンもEC値を上げる効果があります。そのためEC値が高いからといって、硝酸イオンが原因だと即決めつけてしまうのは早計です。過去に塩化物イオンや硫酸イオンを含む肥料(塩安、硫安)を使っていないかなど、総合的に判断します。

EC値が高いとどうなるか?

土壌のEC値が高すぎると、作物が水分や養分を吸収するのが阻害され、枯死する場合もあります。

「青菜に塩」をイメージしてもらいたいのですが、塩分濃度の高い(= EC値が高い)液体が植物に触れると、植物から水分が吸い出されます(浸透圧の低い方から高い方へ、溶媒が移動するため)。

これと同じことが、EC値の高い土壌でも発生します。本来は土壌から植物の根へ水分・養分を吸収したいのですが、土壌のイオン濃度が高すぎると、根から土壌へ水分が吸い出されてしまいます。こうなると、水を撒いているのに植物がうまく吸収できない状況に陥り、収量が減る恐れがあります。また過剰な硝酸イオンが流出するので、余計な環境負荷をかけてしまいます。

EC値の適正範囲

ではEC値はどれくらいが良いのかと言うと、作物による、としか言いようがありません。作物によって塩類濃度への耐性が異なるため、適切なEC値の範囲は様々です。

たとえばトマトは2.0mS/㎤くらいまで耐えますが、キュウリは1.0mS/㎤を超えると濃度障害が起きやすくなります。イチゴはさらにデリケートで、0.2〜0.4mS/㎤が適正範囲です。

主な作物のEC値適正範囲は以下の通りです(一般財団法人 日本土壌協会)。

  • イチゴ:0.2〜0.4mS/㎤
  • スイカ:0.3mS/㎤以下
  • ネギ:0.4〜0.8mS/㎤
  • ホウレンソウ:0.5〜0.1mS/㎤(収穫時点で土壌EC=0.5mS/㎤が理想)
  • キュウリ:1.0mS/㎤以下
  • トマト:2.0mS/㎤以下

EC値が高すぎる場合の対処法

EC値が適正範囲を下回っている場合は施肥をするのですが、実際の農地ではむしろEC値が高すぎて過繁茂やつるぼけなどが発生することの方が問題になりがちです。そこで、EC値が適正範囲を上回っている場合の主な対処法を紹介します。

①土を丸ごと水洗い

土を湛水して溜まっているイオンを洗い流してしまうという方法があります。塩類集積が起きやすいハウス栽培で行われる場合があり、速効性があって確実です(地下水に流れ込む地形は要注意)。

この方法で洗い流せるのは、硝酸イオン、塩化物イオンなどの水に溶けやすいイオンです。水に溶けにくいリン酸イオンはほとんど除去されません。

②土を深耕する

重機を使って土を深く耕すことで、地表付近に溜まったイオンを希釈できます。トラクターにボトムプラウというアタッチメントを装備して耕したり、トレンチャーという重機を使ったりします。

鍬や家庭用耕耘機では太刀打ちできない世界ですな。

③クリーニングクロップの栽培

土から硝酸態窒素を抜き取る「クリーニングクロップ」を栽培する方法もあります。クリーニングクロップは塩類耐性が高く、窒素分を盛んに吸収してEC値を劇的に下げてくれます。

クリーニングクロップとして栽培される植物は、ソルゴー、スーダングラス、トウモロコシなど。

忘れてはならないのは、刈り取ったクリーニングクロップは必ず圃場外へ持ち出すこと。緑肥ではないので、土にすき込んではいけません。土に過剰に溜まっていたイオンを除去したいからクリーニングクロップに吸わせたのであって、それをまた土に混ぜ込んだら元の木阿弥です。

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「緑肥用」と書かれていますが、クリーニングクロップとして使う場合は土に鋤き込みません。

なお、EC値が適正範囲を下回っている場合は、適正範囲を超えてしまわないように注意しながら施肥をします。いずれにせよ、栽培を始める前にEC値を確認することが重要ですね。

今回のまとめ

栽培前にEC値を確認しよう。適正値は作物によって異なる。低すぎる場合は施肥、高すぎる場合は洗浄・深耕・クリーニングクロップで調整すべし。

次回はpHと石灰について書きたいなあ。

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水耕栽培や水槽用と書かれていますが、土を5倍量の水に分散させて測れば測定できます多分。
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本記事とメーカーは違いますがかなり似ている製品です。

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