鍋平のフクロゴケ属地衣類の検査結果

未分類
OLYMPUS DIGITAL CAMERA

以前、鍋平高原で見られたフクロゴケ属地衣類の標本を、大阪市立自然史博物館外来研究員の山本好和様に送付し検査依頼した。当初、私はコナフクロゴケではないかと仮説を立てていたが、山本氏の検証により別種の可能性が高いことが判明。山本氏によるとフクロゴケモドキの可能性が高いとのことだった。ただ、地衣体が小さく特徴が掴みにくいため、個人的には類似種のコナリボンゴケの可能性ももう少しあたってみたい。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA

今回の同定作業は、地衣類の標本観察に役立つ様々な教訓があったので詳しい経緯を以下に載せておく。

①当初の同定
上皮層がところどころ剥がれて粉芽を生じ、腹面には血管のような皺があり、当初は穿孔が見つからなかった。さらに、髄層に1mol/L水酸化カリウム水溶液(K液)滴下後に次亜塩素酸ナトリウム水溶液(C液)を滴下したところ橙赤色に呈色した。以上の特徴から、当初はコナフクロゴケではないかと仮説を立てた。しかし、コナフクロゴケは2025年現在、日光(栃木県)と入笠山(長野県)でしか報告がない。本当にコナフクロゴケであれば国内3例目・岐阜県初となるため、慎重に同定すべきと考え山本好和氏(大阪市立自然史博物館外来研究員)に標本を送付し検査依頼した。

穿孔がない、と当初判断した時の参照画像

②山本氏による検査
山本氏による検査の結果、腹面に穿孔らしきものがあり、髄層にK液を滴下しただけでも橙赤色に呈色した。コナフクロゴケはK液単独では呈色しないため、この時点でコナフクロゴケの可能性は低い。ただし、腹面の穿孔らしきものは採取時に空いた穴の可能性もあるため、より大きい標本の検査や様々なアングルでの生体写真の確認を行うこととした。

③山本氏の検査結果を受けての再検証
フィールドで撮った写真を再確認したところ、部位によっては腹面に穿孔が見られた。採取前に撮影したため、採取時に空いた穴ではなくもともとあった穿孔と考えられる。粉芽を生じ、腹面に穿孔があり、K液で橙赤色に呈色する特徴から、フクロゴケモドキまたはコナリボンゴケと推定した。これら2種は粉芽のつき方が異なることで識別できるが、今回見られた地衣体はまだサイズが小さく確定しにくいため追加のフィールドワークを計画中。

同種の地衣類を別アングルから撮った画像。穿孔らしき穴がある。

教訓としては、まずなるべく大きく育った地衣体を観察すること。小さいものはまだ典型的な特徴が現れていないことが多く、さらに呈色反応に使える試料もあまり取れない。

また、地衣体の一箇所だけ見て「穿孔がない」と判断するのではなく、必ず複数箇所を確認する。今回も、部位によって腹面に穿孔がなかったりあったりした。当初は、たまたま穿孔のない部分だけ見てコナフクロゴケの可能性を考えていた。

呈色反応は適切な反応時間を設ける。①でKC+だと判定してしまったのは、おそらくK液を滴下した後、十分な反応時間をおかずにC液を滴下してしまったため。もう少し反応時間を与えていれば、K液単独でも呈色すると気づけていた。腹面に穿孔がないと早とちりしていたので、コナフクロゴケ説に誘導されたことも要因と思われる。

Follow me!

タイトルとURLをコピーしました