インカ帝国の勃興と滅亡;「インカのめざめ」の栽培と、ウイルス病による壊滅の記録

「インカのめざめ」は北海道農業試験場によって開発され、2001年に品種登録されたジャガイモ品種です。芋の断面は鮮やかな山吹色を呈し、栗をそのまま芋にしたような質感と風味があります。

かつては知る人ぞ知る優良品種でしたが、雑誌やテレビなどで紹介されてここ10年ほどで知名度が上がりましたね。それでもまだ市場流通量は「男爵」「メークイン」などより遥かに少なく、飲食店の料理でも高級感を演出する素材として使用されているように思います。

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インカのめざめは病気に弱い

インカのめざめがあまり流通していない理由のひとつに、病気への耐性の低さが挙げられます。ジャガイモモザイク病はジャガイモに見られる代表的なウイルス感染症ですが、インカのめざめは特にモザイク病への抵抗性が弱いそうです。

先にオチを述べてしまうと、今回作ろうとしたインカのめざめはモザイク病で全滅しました。

モザイク病を発症してしまった葉

原因となるウイルスは感染株の汁を介して伝染するため、アブラムシの吸汁で簡単に媒介されます。そのためアブラムシ用の殺虫剤を散布したり、アブラムシの侵入経路になる雑草を除去したりして感染を防がなければなりません。一度発症すると回復は不可能なので、予防が全てなのです。

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我が家では、アブラムシ用殺虫剤のファーストチョイスです。
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シルバーマルチは反射光で葉の裏を照らすことで、ハダニやアブラムシを追い払う効果があります。

インカのめざめ定植から発芽まで

3月下旬、ホームセンターを探し回ってインカのめざめの種芋を入手しました。1個30〜80gくらいの重さで、他品種に比べ小ぶりです。

入手した種芋は、1週間くらい日光に当てて芽を伸ばしてやります(「芽出し」という作業)。あらかじめ芽を伸ばしておいた方が、定植後にスムーズに成長します。

種芋

大きい種芋を切り分けるときは芽の位置を確認し、それぞれの断片に芽が含まれるようにしましょう。あまりに小さく切り分けると生存率が下がるので、断片一個あたり50gくらいを目安に切り分けてください。下の写真は「インカのめざめ」の種芋を切り分けた様子。断面が鮮やかな山吹色に輝き、種芋の段階から食欲をそそってくれます。ただしこの断面は腐敗しやすいので、消石灰や草木灰をまぶして殺菌しましょう。

大きい芋は、一片が約50gになるように切り分ける。

除草して堆肥を加えた土をよく耕し、種芋を埋めていきます。ジャガイモは地上部が生育したときに土寄せをしなければならないので、寄せるための土を畝の両側に盛っておくと良いでしょう。土寄せは、土中で芋が生育するための十分なスペースを確保し、芋が地表から出ないようにするための重要な作業です。これを怠ると芋に日光が当たってしまい、皮が緑色になって有毒なソラニンを合成してしまいます。土寄せをしなかったためにソラニンが芋に蓄積されて食中毒が起きたという事例も稀にあるので、安全にジャガイモを食べるためにも土寄せは必要です。

種芋の定植(2020年3月14日)

定植後、1か月半くらいかかって地上に芽が出ました。意外と日数がかかってしまった印象です。まだ外気温が低かったこと、事前の芽出しが不十分だったことが、発芽に時間のかかった理由だと思われます。

地上に芽が出るまで1か月半もかかってしまった。(2020年5月3日)

株の高さが10cmくらいになったら、芽を間引いて1〜3本くらいに選抜します。間引いてから株元に高さ2〜3cmくらい土寄せし、追肥を施しました。

紫色の花が咲いた

ゴツゴツした芋とは裏腹に可憐な花を咲かせるのもジャガイモ栽培の面白みです。18世紀にフランスでジャガイモ栽培が奨励されたとき、ジャガイモのイメージ向上のためマリー・アントワネットがジャガイモの花をあしらった髪飾りをつけたりもしたそうです。

蕾を確認(2020年5月25日)

ジャガイモの花は白やピンクなど系統により様々な色になりますが、「インカのめざめ」は紫色の花が咲きます。ジャガイモもナス科の植物ですが、こうして紫色の花を眺めてみると確かにナスの花とよく似ていますね。

「インカのめざめ」は紫色の花が咲くのが特徴(2020年5月27日)
もっと良い写真を残しておくべきだったなあ。

花が咲くところまでは成長したものの、このとき既に生育状況に陰りが出始めていました。他の畑ではジャガイモの地上部が青々と繁り、白い花々が満開に咲き誇っていたのですが、我が畑のインカのめざめはまだヒョロッとした薄緑色の株しか出ていなかったのです。思えば、この時点でもうモザイク病による成長阻害が現れていたのでしょう。

モザイク病の病徴が現れた

そして忘れもしない2020年6月6日、「これぞモザイク病」と園芸のテキストに載っているような、明らかな病徴が出てしまいました。それもほとんど全ての株に。

モザイク病を発症したジャガイモは葉が黄化し、褐色のマダラ模様が入って全体が縮れてしまいます。株の生育も明らかに悪く、もう6月になるというのに弱々しい茎の先に小さな葉が5、6枚ついているだけ。こうなると、もう回復は不可能です。放っておくとアブラムシなどがウイルスを媒介して他の作物に伝染する恐れがあるので、速やかに抜きとって焼却処分するしかありません。

モザイク病の病徴(2020年6月6日)

結局、「インカのめざめ」は全て抜き取りました。手や農具にもウイルスが付着している可能性が高いので、薬剤で消毒し被害の拡大を防止。ウイルス病対策に使える薬剤は真菌・細菌用の薬剤より少ないようで、ホームセンターを探し回ってようやく住友化学園芸のレンテミン液剤を発見しました。この農薬はウイルス感染株の除去に使った農具を消毒するのにも使えるので、有事の際に備えて最寄りの販売店で探しておくと良いでしょう。

なお、レンテミン液剤はシイタケ菌糸抽出物を薬剤としており、有機JAS規格での使用も認められている農薬です(よくある誤解ですが、「有機JASならば無農薬」ではありません)。

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悲しみの焼却処分

株を引き抜いたところ、僅かながら芋が成長していました。モザイク病にかかった芋も食べる分には害はないので、バター焼きにしたり電子レンジで蒸したりしていただきました。

原因の考察と今後にむけて

モザイク病発生の原因と、今後ジャガイモを栽培する場合の対策を考えました。

①アブラムシの侵入を許してしまった

種芋が既に感染していたのでなければ、おそらく感染経路はアブラムシの類でしょう。モザイクウイルスはアブラムシのような吸汁する昆虫を介して、様々な植物からジャガイモに伝染します。そのため事前の薬散が重要なのですが、「ある程度株が育ってから」と後回しにしていました。

②除草が不完全だった

除草とマルチングを行うだけでも、感染の危険性は下げられたかもしれません。他の作物はアブラムシやハダニ対策のためシルバーマルチを敷いていますが、ジャガイモはマルチを敷くと芽かきなどの作業性が悪くなるイメージがあったので、マルチなしで栽培していました。そのため雑草が繁茂し、除草が追いつかずアブラムシなどの侵入経路を作ってしまったと考えられます。ジャガイモ栽培では、土寄せしない代わりに黒マルチで覆う方法もあるので、雑草が生えやすい場所ではマルチを採用した方が良かったのかもしれません。

③病害に弱い品種を安易に採用してしまった

殺虫剤や除草以前に、そもそも「インカのめざめ」が病害耐性の低い品種であることをあまり認識していませんでした。以前別の品種のジャガイモを栽培したときは放任的に育ってくれたので、同じ感覚で育ててしまったところ今回の結果になったのです。あらかじめ病害虫に弱いことを認知していれば、それ相応の対策をとっていたため、そもそもの情報不足が根本原因でした。

ちなみに、同じ環境で一緒に育てていたレッドルビーは健在。やはり病害への耐性には品種差があるようですね。

レッドルビー

つまるところ、「品種特性はよく調べましょう」というお話でした。

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